震災復興で実感される鉄道の役割


29日、東北新幹線が全線で復旧しました。この様子は新聞やテレビなど各社が大きく報じ、沿線から見守る住民の皆さんの様子なども紹介されていましたが、鉄道の復旧は、震災被害の爪痕が今なお深く残る東北地方を勇気づける朗報となったようです。

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4月29日現在の東北地方の鉄道復旧状況まとめ(当会集計)


また、やはり大きな被害を受けた在来線も迅速に復旧しており、東北本線は新幹線よりも早く22日に全線で復旧しました(IGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道は3月18日に全線復旧しています)。これにより旅客はもちろん、貨物輸送も再開され、これまで日本海側(羽越・奥羽線)を経由して盛岡まで運んでいた物資の輸送時間が短縮するとともに、運休していた貨物列車のほとんどが復旧し、首都圏~北海道間などの物流機能が概ね回復しました。他の鉄道在来線も、津波被害を受けた7線区と震災以前に被災していた岩泉線を除くJR全線が、28日までに復旧しました。東北地方の復興にとって大きな力になっていることでしょう。

【右図】29日現在の東北地方の鉄道復旧状況まとめ(当会集計)「東北地方ボランティア交通情報」4月29日版より

29日には、仙台市内で最後まで不通になっていた地下鉄南北線の台原~泉中央駅間も復旧しています。こうした鉄道復旧は、日常を取り戻すことに大きな一歩になったのではないでしょうか。

4/30 大動脈 待望の復旧 一番列車エールで出迎え(河北新報)
4/30 49日ぶり全線再開 駅構内に人波/東北新幹線(陸奥新報)
北斗星(4月30日付)(秋田魁新報)
4/30 仙台地下鉄が全通 台原―泉中央の工事完了(河北新報)
4/29 仙台市営地下鉄が全線再開 工事見直しで予定前倒し(日本経済新聞)

もちろん、鉄道復旧までの1ヶ月半ほどの間には、路線バス各社が定期高速バス路線の迅速な復旧に加え、ただでさえ燃油不足などで経営の苦しい所に臨時バスの運行・増発を行い、被災地の交通を支えたことも特筆すべきです。国交省のまとめによると、震災後6週間(3/12~4/22)で東北地方から首都圏への31路線で20万人の足を担ったとのこと。(首都圏と東北地方を結ぶ高速バスの輸送実績(国土交通省))地域内路線でも、津波等で被災しながらいち早く運行を再開させ、中には運賃を安く抑えるなどして、地域の足を支えています。

一方で、この震災・津波被害により鉄道各社は大変な負担を背負いながら自己負担で復旧を行っているのが実情です。道路の災害復旧は(高速道路会社を含め)ほぼ100%が公費負担で復旧されますが、鉄道は補助率が1/2。半分は鉄道会社が負担せねばなりません。比較的体力のあるJR東日本は他社からの応援も受けつつも迅速な復旧を実現しましたが、比較的経営体力の乏しい地方鉄道にとって復旧負担は大変な重荷です。
2005年の台風による被災を受けて再建を断念した宮崎県の高千穂鉄道や、2009年の台風被害で今なお復旧していない三重県のJR東海・名松線のような事例もあります。

今回の東北地方では、JR東日本全路線の復活意向を明言していますし、阿武隈急行も現在復旧が進められています。一方、半分以上の線区で甚大な津波被害を受けた三陸鉄道は被災5日後に運賃無料(現在は割引運賃)の「復興支援列車」を走らせるなど復旧に向けた意欲はあるものの、復旧費用の捻出目処が立たない面があるのも事実です。茨城県のひたちなか海浜鉄道鹿島臨海鉄道、貨物専業の福島仙台八戸の各臨海鉄道も復旧目処が立っていません。しかも各社とも旅客減少などにより運賃収入が激減しています。もちろん、経営体力があるJR東日本にしても、莫大な損害を受けていることに変わりはありません。昨今は復旧支援ボランティア活動を希望される方が多いとのことで心強いですが、東北地方へお出かけの際に鉄道や高速バスを利用することも、被災地の支援になると思います。

4/21 大奮闘の三陸鉄道、被災者の足に――震災5日後に一部運転再開、赤字なのに運賃無料(東洋経済)
4/05 三陸鉄道「国の支援なければ、もはや何も…」(読売新聞)
4/06 JR東、震災で3月…鉄道収入減 過去最大(読売新聞)
4/18 東日本大震災:半月で過去最悪の減収 JR東(毎日新聞)

市民団体の中からも、地域の生活に欠かせない鉄道や路線バスの復活を支援するための具体的な動きが出てきており、今後随時ご案内できればと思いますが、一方で政府はせっかく懸命な努力により復活した鉄道に水を注すような「高速道路無料化」を実施しようとしていると報じられていました。野党もこれを牽制するどころか賛同しているような有り様のようです。自動車は少ない需要には有効ですが、幹線輸送には不向きなものです。「復興の起爆剤」どころか、生活に必要な交通すら麻痺させてしまうでしょう。日本政治の相変わらずの交通無策ぶりには、怒りを通り越して失望させられます。

4/29 首相、東北道無料化に前向き 補正審議、休日返上(朝日新聞)
4/29 首相、東北の高速無料化「復興へ有力な選択肢」(日本経済新聞)

このように、鉄道による幹線輸送が私たちの生活や経済活動に欠かせない大切なものである事はもちろんですが、もうひとつ、鉄道のような軌道系交通は「都市の装置」であり「心の景色」になるという指摘があります。

宇都宮浄人氏は著書『路面電車ルネッサンス』(新潮新書)にて、軌道系交通は「都市の装置」だと述べられています。

また、2009年の「人と環境にやさしい交通をめざす全国大会」にて『定刻発車』(交通新聞社)の著書・三戸祐子氏が、「鉄道は確かさを提供する。世間では確かさと変化のそれぞれ求められており、変化が無いとつまらないが、変化の激しい中では確かなものが拠り所になる。鉄道は乗り物というより環境に近い。同じ場所を同じ軌道で走る。人々の心の景色になり得る。」(要約)と述べておられました。

鉄道が走っている景色が復活することで、その地域の皆さんが心理的に日常を取り戻すことができる。そんな役割も持っているのかもしれません。

今回の震災では、原発事故も発生し、私たちにエネルギー政策の見直しを突きつけられています。3月14日には東京電力の「計画停電」が鉄道をも対象にしたことで、地震被災のほとんど無かった首都圏の鉄道をも大きく乱し、旅客交通はもとより鉄道貨物輸送まで止めてしまい、大混乱を招きました。都市では鉄道が無くなると日常生活が送れなくなる。そんな当たり前のことを改めて実感させられました。

鉄道の走る情景と、その運行の確かさは、水や空気のように失って初めて気づく大切なもののように感じます。今回の震災とエネルギー政策の破綻は私たちにいろいろ考えさせられましたが、地域の拠り所としての鉄道の価値が再確認されたことも、重要な反省点のひとつだったと思います。

次回へつづく)

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震災復興で実感される鉄道の役割” への8件のコメント

  1. RT @szknryk: これでも、クルマと道路ばっかり優遇するの?? RT @sltcjp 震災復興で実感される鉄道の役割 http://bit.ly/lSb9FC 【後編】5/03 鉄道の安全対策と地域への貢献 http://bit.ly/mPE6Sk #SLTc 持続可能な地域交通まちづくり

    This comment was originally posted on Twitter

  2. RT @szknryk: これでも、クルマと道路ばっかり優遇するの?? RT @sltcjp 震災復興で実感される鉄道の役割 http://bit.ly/lSb9FC 【後編】5/03 鉄道の安全対策と地域への貢献 http://bit.ly/mPE6Sk #SLTc 持続可能な地域交通まちづくり

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  3. 復興には公共交通機関の復活が必須ですね!

    道路だけではなく、私鉄も含め、国にはしっかり支援してもらいたいですね。
    特に、復興期には大量の資材の運搬が必須でしょうし、せっかく復興するので
    あれば、環境に配慮した復興を目指してほしいです。

    ・・・ふと思ったんですが、私たちも価値観も変わり目な気がします。
    東洋の発想で、自然に寄り添い、ものを大切にしていく、
    昔の日本的、東洋的な自然共生型に向かって行く、そう感じています。
    そして東洋的な発想といえば、陰陽五行をもとに、生年月日を分析して、
    宿命や運命を知ることが出来る、東洋史観があります。
    http://www.birthday-energy.co.jp/
    の「運命2011」が分かりやすい。
    いまなら義援金になるそうですから、おすすめですよ。

  4. これでも、クルマと道路ばっかり優遇するの?? RT @sltcjp 震災復興で実感される鉄道の役割 http://bit.ly/lSb9FC 【後編】5/03 鉄道の安全対策と地域への貢献 http://bit.ly/mPE6Sk #SLTc 持続可能な地域交通まちづくり

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