鉄道の安全対策と地域への貢献

前回からのつづき)

■「死傷者ゼロ」に甘んじることなく対策を積み重ねる

【東日本大震災】東北新幹線 福島~仙台間(3月13日撮影)

【東日本大震災】東北新幹線 福島~仙台間(3月13日撮影) © 2011 Hitomi


3月11日の東日本大震災および4月7日の大規模余震によるJR東日本の被害状況は、4月17日の発表にまとめてられていますが、同社在来線では津波被害を受けた7線区を除いて約4400箇所、さらに4月7日の余震で850箇所。新幹線は那須塩原~盛岡間の378kmに約960箇所、4月7日の余震で500箇所とのこと。件数だけでもおびただしいものがありますが、駅舎設備や橋脚損傷などの大きな被害もあり、これだけの被害が1ヶ月半で復旧したことに驚きすら感じます。

[PDF]東北新幹線の地上設備の主な被害と復旧状況(2011年4月17日現在)
[PDF]在来線の地上設備の主な被害と復旧状況(2011年4月17日現在)

このような甚大な被害を受けたにもかかわらず、阪神大震災(山陽新幹線)や新潟県中越地震(上越新幹線)よりも早い復旧を実現したことが、29日の新幹線復旧に合わせて報じられていました。

4/28 東北新幹線:震災復旧も超特急、29日に運行全面再開-生きたノウハウ (Bloomberg)
4/29 東北新幹線、49日で復旧 「阪神より短期」支えた2つの進歩(日本経済新聞)

マグニチュード9以上という世界でも稀な巨大地震による被災は甚大かつ広範囲に及ぶものでしたが、これほど早く復旧できた背景には、これまでの被災経験から学び備える態勢があり、その備えがJR東日本および協力各社の懸命で手際の良い復旧作業を実現したのでしょう。

7年前の新潟県中越地震ではM6.8の直下型地震により上越新幹線直下で震度7を記録、幸い死傷者は出ませんでしたが、列車が大きく脱線しました。この時に死傷者ゼロで良かったと終わらせるのではなく、むしろ状況次第では惨事になっていたことが深刻に受け止められました。この経験を踏まえて、鉄道各社と関係機関が連携して、高架橋やトンネルなどの耐震補強、早期地震検知システムの充実(地震計の増設や動作時間の短縮など)、そして脱線・逸脱防止器具を開発し装着していました。

新幹線脱線防止対策の進捗状況について (MS-Word 35KB)地震時における新幹線の安全対策 (PDF 199KB)第10回新幹線脱線対策協議会の概要について、国土交通省、2009年 3月18日
[PDF] ラーメン高架橋・橋脚の耐震補強対策の進捗状況について(JR東日本、2008年 5月13日)

これらの対策は今回活かされたようで、営業車両の脱線ゼロ(試運転中の車両1両が脱輪)。耐震補強が行われた高架橋では大きな損傷を免れたようです。一方で架線柱の被害が広範囲に及ぶ(冒頭写真)などの課題もあったようです。

3/22 東北新幹線「安全神話」は健在 想定超えた地震でも脱線防ぐ(産経新聞)
4/06 緊急速報メール見習え?脱線を免れた新幹線システムとは(ZAKZAK)
2011年東北地方太平洋沖地震 構造物被害調査(京都大学防災研究所 高橋良和) (PDF 5.2MB)

■現場を無視した理論過信の「安全神話」は崩壊する
3月18日に配信された英文記事では、「控えめに言っても壊滅な被害をもたらし、ここ十年で最悪の原子力危機に火をつけたM9.0の地震ですら倒せなかったものが2つある。沖合いにがっしりと建つ風力発電機と、日本の高速鉄道インフラだ。」と絶賛されていました。細かく見ると事実誤認と思われる記述もある記事でしたが、注目したい点に、発災時に新幹線に乗り合わせた外国人旅行者の手記が紹介されています。

9.0 Earthquake Not Enough to Derail Japan’s High Speed Trains (TreeHugger)
 ―M9.0の地震でさえも、日本の高速鉄道を脱線させられなかった
Nick Schneider: Notes on an earthquake ―地震に直面した記録

東北新幹線沿いでは震度6弱~7の激しい揺れが起きていたと思われますが、この手記を見ると、高速走行中の新幹線車両は静かに停車したこと、その後余震が続く間は車内で待機し、夜には迎えのバスが来て旅館に案内された様子までが報告されています。

一方、今なお世界を震撼させている東京電力福島第一原子力発電所の大事故については、エネルギー政策そのものに加え、原子力利用にまつわる「安全神話」が問題視されています。平成12年版『原子力安全白書』にはまさに「安全神話」についての記述がありますが、ここでは「設計への過剰な信頼」「事故が発生しなかった実績に対する過信」「過去の事故経験の風化」「原子力施設立地促進のためのPA(広報)活動のわかりやすさの追求」、そして「絶対的安全への願望」が「安全神話」を生み出したと自省しています。(しかし、この反省は活かされず取り返しのつかない大事故を繰り返し、今なお「安全への願望」や「広報活動」を繰り返しているようですが。)

『日経サイエンス』2011年6月号には「科学者の思考停止が惨事を生んだ」という記事が載っており、社会が科学を過信したことや、科学が政策推進の道具に利用されたときに「科学技術が誤る」と指摘されていました。
同じ失敗を繰り返さないためには、学者の机上の空論を過信するのではなく、現場の経験に基づいた謙虚な反省と地に足をつけた着実な対策が必要と実感されます。

■地域とともに津波被害からの「復活」を目指す各社

【東日本大震災】JR石巻線女川駅(3月30日撮影)

JR石巻線女川駅(3月30日撮影) © 2011 ChiefHira

【東日本大震災】JR大船渡線 大船渡駅(4月4日撮影)

JR大船渡線 大船渡駅(4月4日撮影) © 2011 Mitsukuni Sato

【東日本大震災】JR常磐線の高架橋倒壊(4月13日撮影)

JR常磐線(おそらく大野~双葉間)の高架橋倒壊(4月13日撮影)

ところで、津波被害を受けた地域の被害は想像を絶するほど深刻で、町全体が押し流されてしまうほどのものでした。駅舎や線路の流失、橋梁倒壊など、ほぼ全壊のような線区が広範囲に渡っているようです。また原発事故の影響で立ち入りすら出来ない地域もあり、復旧の目処すら立っていません。

[PDF]津波を受けた7線区の主な被害と点検状況(2011年4月4日現在)

こうした状況ではありますが、JR東日本の清野智社長が4月5日の記者会見にて、津波の深刻な被害を受けた7線区(八戸線、山田線、大船渡線、気仙沼線、石巻線、仙石線、常磐線)を全て復活させる方針を示しています。これらの各線は軌道も駅も甚大な被害を受けており、時間はかかるでしょうが、全線「復活」の方針が示されたことは、東北地方の復旧・復興に向けた大きな力になることでしょう。

4/06 東日本大震災:被害7線区「復活させる」--JR東社長(毎日新聞)

また、奇しくも3月17日には運輸政策研究機構主催の「チリ地震津波の経験を踏まえた公共交通機関における津波対策に関する調査」発表(震災前より予定されていたもの)が公開で行われました(概要PDF)。こうした研究が日々積み重ねられ、そして全国の交通関係者で共有されています。今後の対策強化に期待したいところです。

4/28 大津波対策 鉄道見直し(読売新聞)

日本の鉄道は今回の甚大な震災被害からも復活することはもちろん、今回の被害状況から教訓を得て、さらに安全なものになることでしょう。すでに津波警報発令時の避難体制の在り方などについて見直しが始まっているようです。各社の取り組みに期待するとともに、私たちもしっかり見守り、応援したいところです。

■鉄道・バスを使えば、いざという時も安心、地域にも貢献
公共交通は地域の毎日の生活に欠かせないものですが、同時に、土地勘のない場所へ出かけるときにも心強い味方です。マイカーがあればどこへでも行ける、と思う人もいるかもしれませんが、マイカーの利用は全て自己責任。あらゆるリスクに備えねばなりません。
今回の震災では津波被害の甚大さが際立ちましたが、大勢が同じ行動を取ろうとする時、自家用車は無力ですし、歩行者や緊急車両の通行を妨げるなど、むしろ他人を危険に晒すものです。

4/01 避難渋滞、津波被害を拡大 促しても車降りる人少数(朝日新聞)
3/22 陸前高田の小3、津波の夜を独りで越え 母と翌日再会(中日新聞)
地域で語り継がれる津波経験 (大楽毛地区編) 平成21年3月(国土技術政策総合研究所) (PDF 2.14MB)

一方、鉄道では大抵の場合は乗務員がいます。今回も大津波警報の発令が指令室から伝えられ、避難誘導がされたようです。乗り合わせた地元の人が近くの高台を案内してくれた場合もあったようですが、多くの人が居合わせていることも心強いものです。
避難後は、携帯電話の基地局の被災などにより連絡が途絶えた所もあったようですが、災害時は安否確認から当面の安全確保まで鉄道事業者が見てくれます。また、運行管理もされているので、非常時にも場所の確認が比較的容易です。

これに比べてマイカーでの移動は孤立してしまうので、被災しても誰からも見つけてもらえない場合があるなど、土地勘のない所ではとても危険。特に余震が続く現状では地滑りなども起こりやすく大変危険です。しかも渋滞の原因になり、緊急車両や物資輸送を妨げ、復旧ボランティアが復旧を妨げる格好になりかねません。本会が 4月25日より配布している「東北支援ボランティア交通情報」でもそうした注意喚起も行いました。

■大切な公共交通に乗って残すことが、地域の復興につながる
地域にとっても、また地域を訪れる人にとっても大切な公共交通は、ただでさえ経営が苦しく苦境に立たされているところに、今回の震災・津波被害が重なりました。『週刊東洋経済』4月16日号「徹底検証 鉄道被災」でも「不採算路線に被災が集中」と載っていましたが、前回も書いたように、被災により廃止も心配されていたところに、JR東日本は津波被害を受けた7線区を「復活させる」と明言していますし、三陸鉄道やひたちなか海浜鉄道など他社も復旧を目指しています。しかしJR東日本といえども被災復旧負担に加えて史上空前の減収に見舞われており、元々経営体力に乏しい事業者では復旧費用負担の目処も立っていない状況です。

私たちの生活と地域の復興に欠かせない公共交通を支えていくために大切なことは、国や自治体にお任せではなく、第一に地域住民、そして地域を訪れる人が利用することです。安易なマイカー利用を見直し、大切な公共交通に乗って残してください。公共交通事業者はきっと期待に答えてくれることと思います。

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鉄道の安全対策と地域への貢献” への8件のコメント

  1. RT @szknryk: これでも、クルマと道路ばっかり優遇するの?? RT @sltcjp 震災復興で実感される鉄道の役割 http://bit.ly/lSb9FC 【後編】5/03 鉄道の安全対策と地域への貢献 http://bit.ly/mPE6Sk #SLTc 持続可能な地域交通まちづくり

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