「自転車まちづくり」の課題~川崎市の人の動きを考える

NPOかわさき市民アカデミーさん主催の地域協働講座「自転車によるまちづくり」に参加しています。あいにく都合がつかず欠席することも多いのですが、先週は古倉宗治さんの「地球環境時代の自転車のスマートなまちづくり」を、そして今週は川崎市まちづくり局交通政策室で「総合都市交通計画」策定を担当されている藤原課長からの報告を、続けて聴講することができました。

■「地球環境時代の自転車のスマートなまちづくり」(6月11日)
978-4-7615-2491-3古倉宗治さんは自転車政策の第一人者で、国内外の自転車政策に大変お詳しく、川崎市内では溝口駅周辺の駐輪場問題を実地調査をされ、今では再開発ビル(丸井などが入居するノクティプラザ)の周辺に短時間無料駐輪機が設置されていたり、駅から遠い(または地下深い)駐輪場の料金が割安に設定されているなど先駆的な工夫がされていますが、こうした政策を提言された方でして、川崎市内の事情もよくご存じです。

先月25日に放送されたNHKクローズアップ現代「“ツーキニスト”が世界を変える」の取材にも協力されたそうで、また番組に出演された小林成基さんが理事長を務めるNPO自転車活用推進研究会にも参加されています。

そんな古倉さんの講義は今回が3回目で、過去2回で基礎的な話をしていただいているので、今回はそのおさらいをしながら、日本国内でよくある自転車政策の問題点を議論する場になりました。なお、詳しくは著書『成功する自転車まちづくり―政策と計画のポイント』(学芸出版社)にまとめられていますので、そちらをご覧ください。

今回は、日本の自転車政策の問題点について下記5点が指摘されました(文言は要約しています)。

クルマ信仰
「クルマ社会」を前提とした自転車政策になっており、クルマ利用を削減するような施策が打ち出されてこない。
自転車の可能性への偏見
自転車が自動車(乗用車)を代替できる可能性が大きいにもかかわらず、自転車利用の可能性を活かそうとしていない。
自転車の長所・短所への偏見
自転車の長所(健康、便利、環境、経済性など)に対する理解度が低い。逆に、自転車の問題点(「放置自転車」「マナー」「事故」など)については過大なマイナス評価がされている。
自転車の位置づけに対する偏見
自転車を独立した交通手段として位置づけようとしない。他の交通手段の付属物・付随物としてしか扱わない。
自転車の安全性に対する偏見
自転車は「歩道が安全」だと言う主観に基づいた話がされている。政府の方針「自転車安全利用五則」(自転車は車道が原則、歩道は例外)を無視し、自転車を歩道に誘導している。

各々関連しそうな話ですが、この中で特に強調されていたのは下記の点でした。

「放置自転車」や「マナー」が過度に強調される一方、自転車活用の利点(環境、健康、災害対応、経済性、時間節約などの効果)は過小評価されている。
○データ分析に基づく客観的な議論ができず、主観に基づく印象論で政策を語っている人が多い。
自転車の利点として、個人や企業は主に健康、経済性、時間短縮に関心を持っているが、行政は環境問題などを主に訴えるので、効果的なPRが出来ていない
自転車利用促進のための政策のはすが、中身を見ると駐輪問題やマナーなど悪い点が事細かに書き込まれているのに対し、伸ばすべき自転車の利点についての記述が少なく、読んだ人が自転車を増やそうと思えないような書き方になっている

川崎市ではそもそも自転車利用促進政策を持っていないのですが、それを置いても、上記のような問題点は私たちに当てはまるように思われます。

■川崎市総合都市交通計画(6月18日)

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『川崎市の人の動き』

今週は、川崎市が平成23年度までに策定を目指して検討中の「総合都市交通計画」を担当している、まちづくり局交通政策室の藤原担当課長が講師でした。自転車利用に限った話ではありませんが、川崎市の交通の特徴を、平成20年(最新)のパーソントリップ(PT)調査の結果を様々な角度から分析された結果が紹介されており、とても興味深く見ました。具体的には、

・人口動向
・首都圏における川崎市の移動特性(地域間のトリップ数とその増減率)
・川崎市内、市内外、通過の交通量と割合
・地域別代表交通手段分担率
・バス分担率
・代表交通手段における自転車の割合(国際比較)
・高齢者のトリップ数
・町丁別夜間人口密度
・町丁別高齢化率
・バス路線網と運行本数の状況図
・バス停までの高低差
・PT小ゾーン別自動車分担率、自転車分担率
・高齢者1人あたりのトリップ数
・区毎の自転車利用者数、駅周辺の駐輪台数と駐輪場容量
・自転車・バスによる主要駅へのアクセス状況(地域と数)

※トリップ数とは、人の移動についてサンプル調査し推計した合計件数です。人の移動の回数で計算します。例えば自宅から職場へ出かけ、帰りがけに買い物をして帰る場合、自宅―(1)→職場―(2)→店(買い物)―(3)→自宅、計3トリップと計算します。

などがありましたが、とても詳しい貴重な資料です。
なお、これらの資料は 川崎市総合都市交通計画検討委員会 第1回 配布資料に含まれており、左記ホームページで公開されています。また、この概要版のような資料『川崎市の人の動き 第5回パーソントリップ調査から』が、市内の区役所や図書館などの公共施設で配布されています。

■データに基づく議論が苦手?~進まない「自転車まちづくり」の背景

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自転車が交通手段分担率に占める割合の都市間国際比較



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川崎市の地域毎の自転車分担率

前回は古倉さんより、印象論(主観)ではなくデータに基づく客観評価が重要だと指摘されました。今回はこのように様々なデータが示されました。これを受けて、川崎市の自転車・交通政策をどうするか?聴講者の議論に1時間ほど取られました。

議論はとても活発で、様々な提案が出てきました。ところが、示されたデータに基づく話は少なく、具体的な要望や主観に基づく話が目立っていたようで。たとえば「放置自転車がひどい」「もっと取り締まるべき」「自転車を進入禁止にしてしまえ」「高齢者が困っている」「ここにバスを走らせてほしい」といった内容です。

各々、重要な視点だと思います。しかし、その背景にあるデータを踏まえた議論にならないのは残念ですし、そもそも自転車利用を推進していると思えない意見ばかりです。自転車の長所に対する理解度が低く、過大なマイナス評価をしている…前回の古倉さんの指摘がそのまま当てはまるような議論になってしまいました。奇しくも、日本で自転車利活用に前向きに取り組めない実情を見せつけられたようです。

そもそも、この議論は「自転車まちづくり」の講座を受講しに来た人たちのものです。これほどまでに、私たちの自転車に対する感覚はマイナス側に偏ってしまっているのでしょうか。

■毎日の生活に欠かせない交通について、日頃から議論する場を!
とはいえ、今回はとても貴重な議論の場になったと思います。先週は国内外の自転車政策とその傾向について師事を受け、今週は地元である川崎市の総合交通計画を検討する元になるデータを豊富に提供され、その上で様々な人から闊達な意見が出されました。

一方で、今回に限ったことではありませんが、市民参加の議論の席でよく見られる課題も見られました。たとえば、自説にこだわって時間配分を考えずに長々と話したり、同じ話を繰り返したり、関係の薄い身上話や体験談を始めたり、他の人の意見を遮ったりと、議論のマナー違反も散見されます。

これに対し行政や企業などでも、(今回の事ではありませんが)結論ありきの「説明」をする、議論の基礎になるデータを出し渋るといった場面に出くわすことがあります。これでは不満のガス抜きやアリバイづくりにしかなりません。

このような議論の問題点については、私自身も本稿を書いていて耳が痛い思いですが(笑)、多くの議論の席に参加し、実際に意見をぶつけ合う中で、学んでいく事だと思います。市民の側も、行政などの側も、普段から本音の議論ができる場をもっと多く取ることで、相互理解にもつながりますし、各論を整理し磨きをかける機会にもなります。政策をより良くし、民主主義や地方主権などの基礎にもなる、大切な事ではないでしょうか。

こうした勉強会や議論など市民参加の場を設けることは私たち市民団体にも出来ますし、実際に開催されていますので、そうした議論の場に皆さんぜひ何度もお出かけになってください。一方、行政の皆さんには、議論の基礎となる資料の提供・充実や、市民主催の議論の場への参加・協力、また市民からの意見・提案を検討委員会などの場に提示して市民意見を反映させる努力をしていただきたいと思います。市民と行政がこのように力を合わせることで、より良い地域交通体系を実現できると思います。

■「川崎市総合都市交通計画」検討に関する質疑応答(要約)
最後に、筆者からの質問と、藤原課長からの回答を、抜粋・要約してご報告します。

[Q]
自転車利用者をバスに誘導するという話があったが、現状の路線バスは違法駐車に阻まれて不便でアテにならない。たとえば川崎区などの幹線バス路線はBRT・LRT化するなど、バス利用をもっと便利で快適にしないとバス利用者は増えないだろう。
一方で自転車を減らす、駐輪場を値上げするなどの話もあるようだが、自転車を不便にしてバスへ誘導することはすべきでないし、出来ない。交通手段には様々な選択肢があり、自由に選べるもの。現状で自転車を不便にすれば、マイカー利用を増やすことにつながる。
[A]
不便にさせていくことは考えていない。各々をより便利にしていく。基本的にはそういう考え方。

[Q]
代表交通手段分担率の話があったが、川崎市は徒歩・自転車・公共交通を合わせて8割。世界に誇れる数字だ。これをもっと伸ばす施策を打つべきだと、昨年10月の新総合計画に関するタウンミーティングで市長に質問したら、総合交通政策に取り組むからという回答だった。
ところが、税金の使い道はどうか。自転車が走る場所や公共交通への投資は少なく、自動車が走る車道にかなりの税金を使っている。これを改めるべきでは。
[A]
この総合交通計画で金のかけ方まで変えることはできないが、川崎は公共交通を伸ばしていく方向は共通認識として持っている。そこを明確にしていく。

[Q]
様々な資料を見せてもらい、川崎市内でも地域毎に大きく違いがあることが分かった。こうした違いがあるのに一つの計画では難しいだろう。今回の総合交通計画が出来た後でいいので、区毎や、もっと小さな地域毎に、交通政策について検討する場を設けたら良いのでは。
[A]
地域毎については、地域の特性に応じて施策を考えていく必要があると思うが、今のところ区毎などは考えていない。

[Q]
検討委員会で「鉄道」「道路」「端末交通」の3つの部会に分けて検討を進めていると聞いた。その中で自転車は端末交通、つまり自宅から駅までという位置づけになっているが、道路には入っていないようだ。
しかし、最近は自転車通勤が増えるなど、目的地まで自転車で行く利用が増えている。こうした利用が増えれば、駅前駐輪場不足の緩和にも役に立つ。道路の方にも、自転車の走る場所について位置づけるべきでは。
[A]
自転車の通勤利用が増えている、そういう面もあると思うが、今後の伸びがどうなるか分からない。またネットワークとして考えていかないといけないので、長期的な戦略を持っていかないといけない。市境を超える広域的な利用は今後どうなるのか見極める必要がある。


末筆になりましたが、このような議論をするとても良い場を設けてくださった世話人の土方さんをはじめ、スタッフの皆さんにはこの場を借りて御礼申し上げます。
なお、今回で2回目の自転車まちづくり講座ですが、次回7月2日の講座を最後に、しばらくお休みして防災などのテーマに取り組まれるとの事です。関心のある方はぜひご参加いただければと思いますし、自転車講座に関心のある方はまたの機会を楽しみにしてください。

また、「川崎市総合都市交通計画」に関する意見交換については、川崎の交通とまちづくりを考える会(K-cube)さんが主催して、意見交換会を9月頃に計画中とのことです。市の政策立案の現場に居られる担当の方と直接意見交換する機会は限られると思いますが、私たち市民団体もそうした場を作ってゆきたいと思っていますので、川崎市の交通をもっと良くしたいと思う方は、そうした機会を見つけて、ぜひご参加ください。

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