日本の街の良さを見直す年に―『世界が賞賛した日本の町の秘密』

持続可能な地域交通を考える会(SLTc) 代表の井坂です。
旧年中は大変お世話になりました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

#この記事は、本会関係の皆様へメールでお送りしたご案内を、新年のご挨拶にかえて掲載します。

昨年は3月の震災に直面し、価値観や優先順位が大きく変化した年になったという話を聞きます。数百年に一度の甚大な津波被害、さらに原発による人災の爪痕が大変深刻で、今なお被災地の復旧・復興を大きく妨げるとともに、従来のエネルギー政策が破綻し、旧世紀の政策の立て直しが求められています。

地域交通の分野では、とりわけ自転車の利用に関心が集まりました。元々健康や環境にやさしく手軽で便利な交通手段として人気がありますし、世界の都市では道路交通が抱える諸問題を解決する切り札として注目されています。
ところが、日本では自転車が持つ良さを日々受益してきた割りに、政策的に軽視されてきました。毎日利用している大人や、交通法規を習得した証である運転免許証を持つ人、道路・交通管理者である行政職員ですら自転車の正しい乗り方をあまり意識せず、「自転車は歩道」という誤解が蔓延した結果、歩行者の安全を脅かす問題が生じています。
昨年10月に警察庁が通達を出し、自転車が車両であり車道を走るという原則を改めて確認しましたが、クルマ優先思想が根深い一部関係者からの問題発言が相次いだ一方、自転車利用者からも、車道では自動車の速度違反や違法駐車といった違法行為が常態化しており、道路構造もクルマ優先思想で造られているなど、自転車が安心して走れる状況にないと言う問題提起が起きています。

この自転車にまつわる諸問題は、日本の交通・環境政策の問題点の縮図であり、破綻が明らかになったエネルギー政策と同様、クルマ優先思想で進んできた20世紀型の政策の限界が、震災をきっかけに表面化したのだと思えます。

そんなこんなで自転車に注目が集まっている12月に、この本が発売されました。

洋泉社新書y『世界が賞賛した日本の町の秘密』 チェスター・リーブス 著、服部圭郎 訳  ISBN 978-4-86248-794-0


■洋泉社新書y『世界が賞賛した日本の町の秘密』
 チェスター・リーブス 著、服部圭郎 訳
 ISBN 978-4-86248-794-0
(参考)翻訳を担当した服部圭郎氏のブログ
http://urban-diary.blog.so-net.ne.jp/2011-12-07

欧州の最新交通政策は国内でもよく紹介されますが、日本の街の良さを見つめた本は、これまで類書がほとんど無かったのではと思います。

自転車だけでも、鉄道やバスだけでもダメで、これらの交通手段+狭い路地や商店街などが揃って初めて、人と環境にやさしい生活が実現します。さらに日本では都市間高速鉄道や郊外鉄道・バス路線も比較的充実しています(危機に直面していますが)。欧州の環境先進都市と呼ばれる所でも、公共交通でほぼあらゆる所へダイヤ通りに移動できるような地域は極めて珍しいと言います。

本書は、日本には主に平坦な都市部で築き上げてきた、人と環境にやさしい街が現存していることを一つ一つ紹介しながら、私たちの何気ない生活が、実は世界でも最先端の環境都市を実現しているのだと教えてくれます。

しかしその良さに気づいていない私たちは、せっかくの「自転車町内」を壊してしまいかねないような交通政策や再開発を繰り返してきました。都市計画による道路の拡幅や家庭の庭の減少、過大な駐車場附置義務や青空駐車場の増加などが、拍車をかけています。

著者は米国ニューヨークに生まれ、都市文化史が専門で、日本の大学で客員教授を務めていた頃には川崎区に住み川崎駅まで自転車で出て通勤していた経験もあるようで、身近な事例を写真入りで紹介し、私たちの何気ない生活が持つ良さについて、新たな視座を与えてくれます。

こうした身近にある良さを、私たちは見落としてきたのではないでしょうか。目新しい技術や再開発ばかりに目を向けるのではなく、身近にある当たり前な存在の良さを改めて見直し、良い所を残し発展させることが、地域コミュニティの再生にもつながり、震災後の私たちに求められているのではないでしょうか。

そして、新書で読みやすいのも本書の魅力です。専門家が書いた学術的な本は専門分野で取り組む人には価値が高い半面、一般には取っ付きづらい面が出てしまいます。一方で本書は、細かく見ると少々誤解や主観的な表現があるかもしれませんが、予備知識が無くても読みやすく、ほんの数時間もあれば読めてしまう分量です。このような本を多くの皆さんに勧めて読んでもらうことで、地域を良くするきっかけになるのではと思います。関心が高く活動的な住民が多い地域から、良くなってゆきます。関心を持つ人が増えることで、地域を良くすることにつながります。

本書は、先月は地元書店の新書売場に平積みされていたので、多くの方の目に留まったのではと思います。こうした本が出ることで、私たちが普段何気なく使ってきた自転車の良さに気づき、一方で何気なく信じ込んでいた「常識」の問題に気づくことで、地域の良さを伸ばすことにつながるのではと思います。

年が明けて早1週間、かく言う私も年明け早々バタバタしてしまい、ご案内が遅くなってしまったのですが、皆さんご多用の所と存じます。本書は通勤通学の電車内や、ちょっとした待ち時間などで手軽に読めるのも魅力です。読み進めるうちに、普段何気なく生活している私たちのまちが、人と環境にやさしい世界最先端の都市に見えてくるかもしれません。

なお、交通政策については、皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、富山市の交通政策について紹介した本が、やはり12月に交通新聞社新書より発売されています。まだ新刊なので、少し大きめの書店に行けば置いていると思います。「交通基本法」の制定も控える中、最新の交通政策に関心のある方はこちらもご覧になってみてください。

交通新聞社新書『富山から拡がる交通革命』


■交通新聞社新書『富山から拡がる交通革命』
 森口将之著
 ISBN 978-4-330-25811-9
http://shop.kotsu.co.jp/shopdetail/003000000039/order/

少しご紹介するつもりが、つい長くなってしまいました。末筆になりましたが、私たち持続可能な地域交通を考える会 (SLTc) では、今年も地域交通をより良くすることを通じ、人と環境にやさしいまちづくりに貢献してゆきたいと考えております。ただし主役はあくまで市民の皆さんであり、とりわけ本会の活動に自発的にご参加・ご協力いただける皆さんのお力にかかっています。今年もより一層のご参加・ご協力をいただき、より多くの方に関心を持っていただくことで、毎日の生活に欠かせない地域交通をより良くしてゆけたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

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